海を知り尽くすベテラン漁師~鎌倉漁業協同組合 飯野 勝良さん~
7年間の会社員生活を経て、海へ――
海を知り尽くすベテラン漁師の飯野勝良さん(77)は、地元沖合で半世紀以上にわたり鎌倉エビやサザエ、アオリイカの刺し網漁を営んでいます。
97歳まで現役漁師だったという父を持ちますが、高校卒業後は家業を継がず、会社員として7年間勤務していました。
しかし、「漁だけではなく、ノリとワカメの養殖や、海の家の経営。年間を通して鎌倉の海で生計を立てられそうだ」と考え、25歳で海に出ることを決心。
父と船に乗り、漁の仕方を継承しました。
そこから漁師への道が始まり50年以上、今では海を知り尽くすベテラン漁師です。「鎌倉漁協で、これだけ漁を長く続けている漁師は珍しい」と飯野さんは話します。
魚群探知機より長年の経験と勘で勝負
飯野さんが行っている刺し網漁は、魚の通りそうな場所に網を仕掛け、網目に魚が刺さるようにからめ捕る伝統的な漁法です。
鎌倉の海を知り尽くす飯野さんは、長年の経験から魚が多く集まりやすい場所を7、8カ所ほど押さえており、そこに網を張って仕掛けます。
道路や標識のない海の上で正確にそのポイントにたどり着くために、陸地に見える特定の構造物や地形を点として定め、それらの点が交わる場所を目標とする方法で仕掛ける場所を見つけています。
今では、当たり前となった魚群探知機やGPSに頼らず、長年の経験と勘で勝負しているところにベテラン漁師としての経験が感じられます。
しかし、ある日、海に出てみると、目印としていた住宅が建て替えられていたり、屋根の色が変わっていたり、目標物を見失いそうになることも度々あるそうです。「視力も落ちているので、ポイントを見つけるのは結構大変です」と頭をかいて笑います。
後輩漁師のためにも漁港整備を
相棒である漁船を停泊させているのは、鎌倉の海岸の砂浜の上。
漁に出る時は船のエンジンをかけてすぐ出航というわけにはいかず、まずは船を砂浜から海に運び入れなければなりません。
漁から帰ってきて船を引き込む際、胸まで水に漬かるので冬の寒さは身にこたえます。
また、浜辺は波の影響を受けやすく、波の合間の穏やかなタイミングを狙いますが、日の出前は辺り一面が真っ暗で、大きい波に気づくことが難しく危険を伴います。
これからの地元漁業を担う後継者たちのことも思い、飯野さんは「船を停泊できる漁港が整備されるといい」と願っています。
鎌倉エビやサザエは産卵期を避けるため、漁期が限られています。漁港のある周辺地域と比べ、波の影響で船を出せない日も多く、歯がゆい思いをしたことも少なくありません。
浜から船をおろす重労働や気苦労から解放され、いつでも気持ちよく漁に出られる。そんな日を待ち望んでいます。
私たちの食事に、魚やエビ、貝など魚介類は欠かせない存在です。
その新鮮でおいしい魚たちを皆さんの食卓に届け続け、鎌倉の海を盛り上げていくには、漁師さんの存在と漁業を続けられる環境を整備することが大切です。
市では、鎌倉の漁業を絶やさずに継続していくことができるよう、安全に漁業を続けられる環境を整える計画「ミズキカマクラプロジェクト」を進め、海のあるまち鎌倉のさらなる発展に努めてまいります。