見出し画像

スマートシティ、動いてます!~三方よしで守る市民の安全安心

こんにちは。鎌倉市政策創造課スマートシティ担当の勝です。
さて、前回は江ノ電さんの取組について、スマートシティの視点からお伝えしました。今回は、鎌倉市の取組である鎌倉市消防本部の実証事業について、紹介します。

実は、市民の皆さんの命を守る鎌倉市消防本部では、現在デジタルサービスを活用し、「より早く、より的確な、救急搬送」を目指した、実証事業に取り組んでいます。
今回はこの実証事業では、「どんな技術を活用しているのか?」「私たちの生活にどういったメリットがあるのか?」について、スマートシティの視点からインタビューをしました!

写真、左から角田さん、村田さん、高橋さん

~プロフィール~ (※2022年3月31日時点の情報です。)
高橋浩一さん
鎌倉市消防本部 警防救急課課長。
資材の整備や職員の研修など、現場を陰で支えている。
角田勲さん
鎌倉市消防本部大船消防署 警備課課長。
救急救命士として20年活躍し、今は救急隊全体の隊長も務める。
村田隆一さん
鎌倉市消防本部大船消防署 大船救急隊隊長。
28年間救急救命士として現場で活動するベテラン職員。

1秒1分を絞り出せ、超高齢社会への消防のチャレンジ


今日はインタビューの機会をいただきありがとうございます!
消防職員の皆さんは私たちと同じ「鎌倉市」の職員ですが、業務で直接関わることは意外と少ないですよね。私自身も、実は皆さんの業務について知らない部分が多いんです。まずは消防業務について簡単に教えてください。

高橋さん
そうですよね。私たち消防の任務は知られているようで、見えない部分が実は多いんですが、大別すると3つあります。
①火災から国民の生命財産を守ること
②地震や災害を防除ぼうじょすること
③災害等で発生した傷病者を適切に医療機関に搬送すること
この3つの任務のために日々の業務や訓練を行っています。


消防と聞くと、消防車で消火活動をしているイメージが強いですが、救急現場への出動や、災害対応など、活動の幅はとても広いんですね!こうした業務を遂行していくために、普段どんなことを大切にされていますか?

村田さん
救急で言えば、いち早く傷病者のもとに駆け付けること。病状を観察し、脈拍や血圧、心電図などを測り、必要に応じて応急処置を行うこと。病状に適した医療機関を選定し、より早く病院へ搬送すること。これらが我々の使命です。

救急車の車内の様子


救急現場では、スピードが大切なんですね。1秒1分を絞り出すために、日夜厳しい訓練に励まれているかと思いますが、今、救急の現場ではどんなことが課題とされているんですか。

高橋さん
鎌倉市の救急においては「高齢化」が課題です。救急車の出動件数は近年右肩上がりで増加しています。老老介護(高齢者の介護を高齢者が行うこと)の方も多いので、病状の把握にも時間がかかり、現場に滞在する時間がどうしても長くなる傾向にあります。


鎌倉市の高齢化率(人口に占める65歳以上の割合)は30%を超えています。高齢化は日本全体を取り巻く大きな課題ですが、救急現場にも影響しているんですね。

村田さん
救急搬送では、「症状がいつから続いているのか」、「普段飲んでいる薬は何か」など、必要な情報を早く聴きとり、その方に適した医療機関に運ぶことが求められます。しかし、ご高齢の方だと、必要な情報の聞き取りに時間がかかる傾向があります。


搬送までに時間を要してしまうと、台数が限られている救急車両の運用の面でも大きな課題ですね。このような課題の解決に向けて、消防ではどのようなことに取り組んでいるんですか?

村田さん
次世代救急医療システムを作るための実証事業に取り組んでいます。
(※2021年7月に、鎌倉市は鎌倉市医師会、TXPメディカル株式会社との間で協定を締結し、同年9月から実証事業を始めています。)

協定締結式の様子
(左から、TXPメディカル株式会社、鎌倉市長、鎌倉市医師会、鎌倉市消防本部消防長)


「次世代救急医療システム」って、なんだかちょっとミライ感のあるフレーズですが、実際どんなものなんですか。

村田さん
次世代救急医療システムとは、スマートフォン内のアプリを活用したシステムです。AIなどの技術で患者情報を音声でデータ入力したり、お薬手帳などを素早く読みとり、そのデータを病院に送信して情報を共有することで、搬送先の病院決定の迅速化を図るといったものです。

村田さんへのインタビューの様子


スマートフォンやアプリが、まさか救急現場でも使用されているとは!

次世代救急医療システム、搬送先決定まで約1分削減


スマートフォンやアプリを活用した「次世代救急医療システム」を導入することで、救急現場での活動がどのように改善されたんですか?

角田さん
今までは患者さんから一通り症状などを聞き取った後に、搬送先の病院を決めるために、一件一件病院と電話でやりとりしていたんです。次世代救急医療システムを導入してからは、音声やカメラを使い患者情報をデータ化して、瞬時に病院に転送することができるようになりました。一番のメリットは、搬送先の病院を決定するまでの「時間短縮」です。

角田さんへのインタビューの様子


1秒1分を争う救急現場で、病院に受け入れ可能かどうか、一件一件電話をしていたんですね…。今回、システムを導入したことで、どれくらいの時間が短縮されたんですか?

村田さん
これまでの電話のやりとりでは搬送先の病院の決定までに2分程かかっていたものが、スマートフォンのアプリから病院にデータを飛ばしてそれを見ながら話すので30秒ほどで済むんです。

「次世代救急医療システム」のイメージ


え?1分30秒も時間が削減されたんですか?救急現場での1分30秒って、私たちが普段何気なく過ごしている1分30秒よりも大きな時間ですよね。

村田さん
おっしゃる通りです。
電話だけの場合、搬送を断られてしまうと、また次の病院に電話をかけて一から同じことを説明していました。仮に10件断られれば、単純計算になりますが、20分以上かかることになってしまいます。


病院側が受け入れ可能かどうかは、その時々の病院の状況によりますよね。

高橋さん
次世代救急医療システムでは、一度データを入力してしまえば、同じデータを次の病院に飛ばすこともできるので、従来の電話でのやり取りに比べ、とても便利です。


なるほど、患者さんの搬送時間の短縮を実現できるだけでなく、救急現場での活動の効率化という点でも大きなメリットがありますね。

高橋さん
さらに、きちんとしたデータがあれば、病院側も受け入れ可能、不可能の判断が素早く正確にでき、聞き落としなどによるミスマッチも減ります。実証事業では、結果として搬送先決定までの平均通話時間が3分30秒から2分44秒まで大幅に縮まりました。


病院側にとっても、受け入れ判断の迅速性や正確性、受け入れ体制の準備の点でメリットがあるんですね。患者さん、消防職員、受け入れ先の病院、の3者にとってメリットがあるデジタルサービスって、本市がスマートシティの取組で目指すサービスそのものですね。

デジタルが進める救急現場の三方よし


関係する3者にメリットがある次世代救急医療システムですが、救急搬送以外にも活用できたりするんですか。

村田さん
患者さんを病院に搬送した後に作る報告書にもデータを活用できます。このシステムを使うと、病院から戻る途中にデータを入力して消防署に転送できるんです。報告書の情報を事前にある程度埋められるので、消防署に着いてからの作業がスムーズに行えています。

実証事業のイメージ図と概要


事後処理である報告書の作成でも時間が短縮できるのはとてもいいですね。ちなみにその報告書の作成って、どのくらい時間がかかるものなんですか。

村田さん
報告書は、基本的には15分くらい、内容が複雑な救急活動だと30分くらいかかります。1件ずつはそこまでの時間ではないですが、1日何件も出動しますから、何件も作成すると結構な時間になってしまうんです。


消防というと、現場対応のイメージが強いので、対応が終わったあとの報告書の作成の部分って、市民の皆さんには、あまり知られていない業務ですよね。しかも、現場で身体を使った後の事務作業は、本当に大変そうです…。

村田さん
そうなんです。ただ、この次世代救急医療システムを使うことで、救急搬送の時間や報告書の作成時間などが少しずつ短縮されます。これによって生まれた時間を、若手職員のトレーニングにあてることもできるので、結果として、市民と消防職員の双方にメリットがあると感じています。

高橋さん
デジタル技術は進歩していますし、この取組もある程度成果を出してきているので、今後消防職員の働き方自体を変えていく可能性すらあると感じています。市民の方はもちろんのこと、我々の消防の活動や、搬送先である医療機関にも負担がなるべく生じないように、今後も連携を取りながら新しい技術を積極的に取り入れていきたいと思っています。

高橋さんへのインタビューの様子


スマートシティが目指すのは市民の皆さんのWell-Beingの向上です。スマートシティサービスに関わる全てのステークホルダーにとってメリットが生じるサービスが理想的ですね。

村田さん
ちょっと先の話かもしれませんが、将来的には、マイナンバーカードを端末に当てると既往歴やかかりつけの病院が出てくるようになれば、患者さんから直接情報が聞きとれないような場合でも、大変便利になるんじゃないかと思います。


もう次の課題の解決に向けて考えているんですね!おっしゃるように、マイナンバーカードを使った、利便性の高い具体的なサービスが生まれてくると、マイナンバーカードはスマートシティと切っても切れない関係のものになっていくのかもしれません。
本日はインタビューにご協力いただきありがとうございました。

インタビューにご協力いただきありがとうございました!

さて、今回は市民の命を守る消防職員の皆さんへのインタビューの様子をご紹介しましたが、いかがでしたか?
デジタルサービスの導入により市民の安全安心を支えるだけでなく、サービスに関わるステークホルダーの業務の効率化を図ることで、次世代の人材育成にも時間を充て、持続可能な消防業務に繋げようとされていることがよく分かりました。高齢化が進む今、市民の皆さんのWell-Beingの向上を図りながら、関係するステークホルダーの業務の効率化にも目を向けていくことが、スマートシティの取組においてとても大切な視点だと感じました。