漁業がいかにまちに関わってきたか(後編)
鎌倉の海が市民にもたらす価値を「マナブ」「ツドウ」「トル」の3点でとらえ、これらの活動を支える土台の役割をあわせもった拠点として構想が進む坂ノ下の漁業支援施設づくり「ミヅキカマクラプロジェクト」。
前編では「マナブ」「ツドウ」にスポットをあて、仕事を学んだり地域交流を育む場となっている海の側面をご紹介しました。後編では、「トル」についてご説明します。
トル、まちの食文化を育む 食卓を豊かにする
「海が『マナブ』や『ツドウ』場となっている」ということは、少し想像し難い事象だったかもしれません。この後編では、「まちにある海がどんな場となっているか」を最もイメージしやすいだろう「トル」。
トルとは「魚を獲る」ことです。
鎌倉の海は「少量ながらも多品種が獲れる漁場」で、シラスやワカメだけでなく、アジ、サバ、サザエ、アオリイカ、マダコ、カマス、ボラ、ナマコ、カレイやヒラメのほか、なんと!! 高級魚のクロダイ、イセエビ、アワビも水揚げされます。イセエビは関東近郊で「鎌倉エビ」の名称で親しまれており、江戸時代の百科事典にも記述が残っているほど。
私たちが、鎌倉のまちの鮮魚店や飲食店で当たり前のように目にする「生シラス」も、実は鮮度が落ちるのが早いので、現地でないとなかなか味わえない代物です。
一年を通じて様々なお魚が獲れ、お刺身・お味噌汁の具・塩焼き・煮魚と楽しみ方も様々。食卓も豊かになりますね。
トル、地元の漁業のことを知って欲しいとはじまった朝市
地元の漁師さんが月に一度朝市を企画しているのは、地元の皆様に鎌倉で獲れたお魚を食べてもらいたい、こうした豊かな漁場が鎌倉にあることを知ってもらいたいとの思いから。新鮮な海の幸がお得に買えるほか、漁師さんならではのおいしい食べ方を教えてもらえると好評です(現在は新型コロナウイルス感染症の影響により休止中)。
トル、鎌倉の水産物が学校給食に登場!
鎌倉の冬の風物詩として親しまれている、海岸でのワカメ干し。水揚げされたワカメは市内の小中学校にも提供されています。子ども達が学校給食を通じ、漁師町としての鎌倉を実感できるのは食育の観点でも大切なこと。
また、地産地消により輸送にかかるコストやエネルギーの削減にもつながり、地元経済の循環促進にも役立つなど、まさに一石三鳥!
トル、まちの風景を豊かにしてきた? まちの漁
ところで、皆さんは鎌倉に古くから伝わる漁法を知っていますか?その名は、プロジェクト名の由来でもある「覗突漁(みづきりょう)」。木箱の底にガラスをはめ込んだ「箱メガネ」で海中をのぞき、船の上から長い竿で獲物を突くというものです。なんとも原始的な漁法ですが、伝統を守り続けるというのはいかにも鎌倉らしいですね。ちなみに、箱メガネでのぞく海の中は透明度が高く、別世界が広がっているのだとか。
海で起こっている「マナブ・ツドウ・トル」を型化していくために
このように、食卓においしい魚を届けてくれるだけのものではなく、地域の文化的側面もある漁業。これを守っていくには、漁師さんの頑張りだけではなく、多くのバックアップも必要となります。
だからこそ、大切なのは、まちの漁業の価値を多くの市民の方に知ってもらうこと。そして、単なる「漁港」ではなく、これまでご紹介させていただいた「マナブ・ツドウ・トル」といった活動を継続し、さらに発展させていくため、『漁業支援施設』の整備が必要だと鎌倉市は考えています。