漁業がいかにまちに関わってきたか(前編)
みなさん、鎌倉市が進めている「ミヅキカマクラプロジェクト」って聞いたことがありますか?
「漁業支援施設づくり」とは、分かりやすく言うと「漁港」の建設になりますが、施設の概要は改めてご説明するとして、まず施設のテーマが「マナブ・ツドウ・トルの拠点」になっている背景をご紹介しましょう。今回は「マナブ」と「ツドウ」について。
マナブ、海が、働くことを体験する場になる
そう、「学ぶ」のことです。多様な生物、マリンスポーツ、ごみ問題、あるいは青春・・・。海で学ぶものは人によって色々とあります。
鎌倉の海は、市内の福祉施設の皆さんにとって、活動を通じて新しい体験をする場になっているのです。
その「新しい体験」とは「これまでにない新たな取組みを実践すること」。浜に打ち上げられた海藻を回収し、集めた海藻を干し、砕き、粉末にするまでの作業を福祉施設の皆さんがお仕事として取り組んでいます。
こうしてできあがるのは、なんと豚の飼料。
これを与えて育てられた豚は「鎌倉海藻ポーク」としてブランド化され、市内のレストランなどで採用されています。
市場価値がなく、これまでは廃棄処分されていたことを考えると、新たな価値を生み出す海藻回収のお仕事は大変意義がありますよね!
海藻をエサに育った豚肉は、脂の融点が低く口どけの良さにつながります。柔らかくスッキリとした肉そのものの旨味が凝縮されているのが特徴になっているそうです。
マナブ、福祉施設の皆さんと漁師さんでつくる「海の循環」
秋ごろに回収した海藻には「母藻」が混じっていることがあります。母藻とは、新たな海藻を生み出す種をもった海藻のこと。福祉施設の皆さんは、回収した海藻から母藻のみを選って地元の漁師さんに手渡します。
その手渡された母藻をどうするかというと、、、
鎌倉の海の中で、ムラサキウニやアイゴといった魚が海藻を食べ、海藻が減少して砂漠化した「磯焼け」と言われる状態が起こっているところがあります。鎌倉では、漁師さんが海に母藻をもどし、新たな海藻を生み出すことで、海の命を循環させて「磯焼け」を抑える活動をしています。
福祉施設の皆さんと漁師さんとのつながりが、こうした環境改善や鎌倉の豊かな海を守ることにも一役を買っています。
ツドウ、お祭りがうみだす地域のつながり
年間を通じて多くの人でにぎわう鎌倉の海では、漁にちなんだ伝統的なお祭りが行われます。
たとえば、漁師さんの仕事始めとなる1月2日の「船おろし」。海の神様である「船霊さま」に大漁と安全を祈るもので、色とりどりの大漁旗を掲げた漁船がそろう姿は圧巻で、縁起物のみかん投げもあります。鎌倉のまちの「お正月の風物詩」として楽しみにしている人も多くいらっしゃいます。
人が集えば生まれるコミュニケーション。
その場がお祭りであれば、鎌倉を愛する気持ち、地域の人とのつながりも自然と深くなるもの。お祭りって、そんな不思議な力があると思いませんか?
マナブ、ツドウ、トルの拠点へ
このように、鎌倉では海という絶好のフィールドを生かし、人々が学んだり、集い交流する機会がたくさんあります。
・・・ただ、これらの活動は漁師さん、個人・団体の有志の方々によって担われているものがほとんど。
継続させたり、より充実させるには、やはり大きなバックアップが必要なのです。そこで、鎌倉市では単なる漁港ではなく、市民の学びや集いの場を支える土台の役割をあわせもった漁業支援施設の整備を目指しています。
次回では、「トル」の意味についてご紹介します。