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デジタルから見た世界のまちづくり/台湾に行く~気軽な「いいね!」から創り出される新しい政策

こんにちは、政策創造課スマートシティ担当の松村です。

これまで「デジタルから見た世界のまちづくり」と題して、「decidim」(バルセロナ/スペイン)や「Omastadi」(ヘルシンキ/フィンランド)といった、世界で先進的に導入されている市民参加のためのオンラインプラットフォームを見ていきました。

2つの記事では、ヨーロッパの取組をご紹介しましたが、実はアジアでも既に導入が進んでいるんです。そこで、今回の記事では、お隣の「台湾」で導入されている市民参加のためのオンラインプラットフォーム「JOIN」について見ていきたいと思います。


デジタル競争力でアジア先進の台湾

さて、皆さんは「世界デジタル競争力ランキング」を知っていますか?

世界63の国や地域を対象に「知識」「技術」「未来への備え」の3つの観点で、スイスの国際経営開発研究所(IMD)がランク付けしたものです。
2022年のランキングでは、日本が29位と過去最低だったのに対し、お隣の台湾はなんと11位。しかも、2021年は8位だったんです。凄いですよね。

記憶に新しいところでは、新型コロナウイルスの感染拡大の際に、行政がGoogle map上で近隣店舗のマスクの在庫状況が確認できるシステム「マスクマップ」を開発し、市民に提供したことで、パニックを免れたという事例があります。

これの何が凄いかというと、マスクマップのシステムは、行政と市民のエンジニアが協力して僅か「3日」で完成させたんです。1つの課題解決に向けたプロジェクトを行政と市民が協力して、これだけのスピード間で進めていけることは凄いです。

では、そんなデジタル化が進んだ台湾で導入された市民参加のためのプラットフォームを見ていきましょう。

導入当初は一方通行のコミュニケーションツール?台湾の「JOIN」が導入された経緯とは

台湾の市民参加のためのオンラインプラットフォーム「JOIN」が導入されたのは2015年になります。

ではなぜ、台湾で市民参加のためのオンラインプラットフォームが導入されたかというと、きっかけは2014年に発生した「ひまわり学生運動」でした。
ひまわり学生運動とは、2014年に台湾の民主主義を守ろうと発生した若者が中心の学生運動で、これを受けて、行政が若者からの提案をオンラインで受け付けることが可能な新しい仕組みとして導入したものが、「JOIN」になります。

導入された当初は、若者の意見を「受け止める」ため、市民から行政に対する一方通行のオンラインプラットフォームとして整備されたようです。イメージとしては、デジタル嘆願書といった感じでしょうか。

しかし、2016年に台湾のデジタル大臣に就任したオードリー・タン氏により「市民が政策に対しアイデアを提案し、市民と行政が双方向で話し合うことできるコミュニケーションツール」へと変わっていったんです。

「意見を受け止める」から「話し合う」へ

世界中で閲覧可能なコミュニケーションツール

では、市民と行政の双方向のコミュニケーションツール「JOIN」がどのように運用されているのか見ていきましょう。

「JOIN」は、GoogleやSNS等のアカウントを所有していれば、誰でもログインすることが可能です。つまり、世界中の誰でも投稿内容や議論の様子が閲覧できるオープンプラットフォームなんです。
アイデアの投稿は、台湾籍や在住許可を保有している方のみとなりますが、議論の様子を世界中の人が見ることができるため、とても議論の透明性が高いです。

「共感」により1人の提案内容が政策へ

さて、オープンな議論の場である「JOJN」ですが、まさに市民からのニーズが高い内容が政策実現に向けて取り上げられていきます。

どういうことかと言うと、「JOIN」では市民から提案されたアイデアに対し、60日以内に5,000人からの賛同を得られた際には、提案内容を所管する行政機関が2ヶ月以内に書面で回答をする必要があります。
つまり、提案された内容に対し、多くの市民が同じように課題や問題を抱えている場合には行政に声が届き、政策等による実現の可能性が高まることになります。

提案内容に対し所管する行政機関が書面で回答するまでのプロセス「JOIN」

また、行政に対しても、多くの賛同が得られた提案に対して回答する条件が示されているので、プロセスが明確であり、市民が行政に対しアイデアを提案するメリット(意義)が感じられているように思います。

台湾の市民参加のためのオンラインプラットフォーム「JOIN」とは、自分が感じている課題や問題などについてオンラインで提案を行い、皆が共感することで政策へと変えていくことができる、誰もが気軽に参加することができる開かれた議論の場と言えるような気がします。

自主性・影響力・透明性がつくる信頼感

これまで、「デジタルから見た世界のまちづくり」として全3話で世界で導入が進む市民参加のためのオンラインプラットフォームについて見てきました。

それぞれのオンラインプラットフォームには特徴があり、バルセロナのdecidimは「自主性」、フィンランドのOmastadiは「影響力」、台湾の「JOIN」は「透明性」に焦点を当てており、より多くの市民の意見をもとに政策形成を進める環境づくりを進めているように感じました。

自主性・影響力・透明性により生まれる信頼感

この「自主性」「影響力」「透明性」とは、政策形成に向けた市民と行政とのコミュニケーションにおいて必要不可欠な要素であり、これらの要素によりお互いの「信頼感」が生まれていくことで、議論が更に活性化していくのではないかと思います。

鎌倉でも、昨年度から市民参加のためのオンラインプラットフォーム「Liqlid」を導入して、共創の取組を進めています。

鎌倉は、この市民参加のためのオンラインプラットフォームに、対面の市民対話やワークショップを組み合わせた、「市民参加型共創プラットフォーム」という仕組みにより、幅広い市民の皆さんの意見を政策等に反映できるよう運用を行っています。

鎌倉の市民参加型共創プラットフォーム

今後も、市民の皆さんが感じている課題や問題をもとに、政策や事業について共に考え、共に創っていけるよう、「自主性」「影響力」「透明性」の3つの要素を大切にした運用を進めていきたいと思います。