江ノ電開業120周年、移動の価値を再定義する!~スマートシティの思考で地域課題と向き合う~
こんにちは、鎌倉市政策創造課スマートシティ担当の勝です。
このマガジンでは、「スマートシティって何?」をテーマに、他自治体の事例や、本市の取組等についてお伝えしてきました。
「スマートシティ」というフレーズを聞くと、行政の取組でしょ?と思われているかもしれませんが、そんなことはありません。皆さんの身近なところでも、スマートシティは始まっているんです!
皆さんお馴染み、地元の交通事業者である江ノ電さんでは、スマートシティ的発想のもと、様々なプロジェクトを進めているそうです。今回はそんな江ノ電さんに、「スマートシティってどう思う?」をテーマにインタビューをしましたので、その様子についてご紹介します。
~プロフィール~
前原篤さん
江ノ島電鉄株式会社 経営管理部長
関口純さん
江ノ島電鉄株式会社 経営管理部課長
湘南MaaSプロジェクト 統括コーディネーター
コロナ禍が地域課題と向き合うきっかけに
勝
今日はインタビューの機会をいただきありがとうございます。子供の頃から大好きだった江ノ電さんのお話を伺えるので、すごくワクワクしています!
前原さん
そういっていただけると嬉しいです。「スマートシティ」に関連づけて話さないといけないのでは、とちょっと緊張していましたので。
勝
いえいえ、「スマートシティ」というと、行政が取り組む事業と皆さん思われますが、そんなことはないんです。江ノ電さんは、地域の方のニーズを把握し、様々なプロジェクトを進められていると聞いていますので、本日は江ノ電さんのそういった取組についてお話を伺えればと思います。
江ノ電さんは、地域住民の日々の足としてだけでなく、湘南の海沿いを走る観光電車として国内外でも絶大な人気を誇る鉄道ですが、新型コロナウイルスの感染拡大で、どんな影響がありましたか?
関口さん
江ノ電に乗られる方は、通勤、通学で利用される地元の方や、観光で乗られる方など、目的が様々です。コロナ前は、観光客の皆さまの利用がとても多く、混雑緩和に向けた対応に重きを置いていましたが、コロナ禍で利用者が減少したのをきっかけに、改めて地域が抱える課題について、目を向けるようになりました。
勝
観光電車であり、「江ノ電に乗ること」が一つの目的となっている点は、他にはなかなかない特徴ですよね。多くの方が様々な目的で利用される「江ノ電」は、まさに公共的な交通事業であり、観光客と市民の両方の課題を抱える私たち市役所と少し似ているような気がしてきました。
関口さん
多くの方が様々な目的で利用されることもあり、交通渋滞や防災対応、オーバーツーリズムなど、当社が関係する課題は山積しています。さらに、コロナ禍により、私たちのライフスタイルは大きく変化し、通勤通学を含め、移動をしなくても生活できる世の中になりつつあります。ですが、地域の皆さまには、コロナ禍においても、当社の鉄道・バスなどをご利用いただきました。そこで、改めて地元のお客様の課題に向き合い、応えていこうと、今、新たな挑戦を始めているところなんです。
勝
確かに、以前は、ゴールデンウィークに改札内への入場規制をしているのがとても印象的でしたが、新型コロナウイルスの影響で、観光客の減少だけでなく、地元にお住まいの方の移動そのものも大きく変化しましたよね。
江ノ電でも始まっているスマートシティ!!
前原さん
実は江ノ電は、2022年9月で開業120周年を迎えるんです。コロナ禍の影響もありますが、そんな節目である今、一つの発想の転換期なのかなとも考えています。
勝
おお、120周年とは、おめでとうございます!コロナ禍をきっかけとした、新たな発想により、どのようなことに挑戦されているんですか?
関口さん
2021年に江ノ島電鉄グループとして「湘南MaaSプロジェクト」を立ち上げました。MaaSというのは、利用者の移動ニーズに合わせて複数の公共交通などのサービスを一つに結び付け、検索から予約、決済などをまとめて行うシステムのことです。
勝
「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の頭文字をとって「MaaS」なんですよね。
関口さん
さらに、交通だけでなく、飲食や買い物、医療など異なる分野のサービスを組み合わせることもできるので、MaaSの取組を進めることで、移動だけでなく、飲食や買い物、医療などが一気通貫でつながり、利便性をぐっと高めることができるんです。
勝
複数の分野を結びつけ、移動の際の利便性や快適性の向上を図るといった考え方は、本市がスマートシティの取組で目指している「Well-Being(幸福感)の向上」と一緒ですね!
どういった経緯でこのプロジェクトを立ち上げられたんですか?
関口さん
移動というと、どうしても「1分でも早く、1円でも安く」と考えてしまいがちですが、私たちは、まず、公共交通で移動することに「便利さ」や「楽しさ」を感じてもらったり、地域を回遊したいと思ってもらえたりする仕掛けを考えることから始めました。
勝
たしかに鎌倉には、鉄道やバスでアクセスするには、ちょっと不便だなと感じる地域や観光名所が多いでよね。だから、単なる移動に「便利さ」や「楽しさ」という価値をプラスする仕掛けなんですね!
既に開始されているサービスはあるんですか?
関口さん
第1弾として、江ノ電1日乗車券「のりおりくん」のデジタル版を、EMotというアプリを通じて2021年にスタートさせました。窓口に並ばなくても1日乗車券(デジタルチケット)が買えて、もちろんクレジットカードでの決済もできます。実は今、駅の窓口ではクレジットカード決済ができないんです。
また、EMotで地図を表示すると、1日乗車券(デジタルチケット)の提示で様々なサービスを受けられる提携店の情報が、今いる場所の近くにどれだけあるのかが、一目で分かるんです。提携店の追加も簡単なので、利用者の方にお得で便利な情報をたくさん届けられるように、提携店を積極的に増やしています。
勝
これが先ほどおっしゃっていた、移動だけでなく複数の分野のサービスを結びつける、ということですね!
第1弾ということは、他にも始められているサービスがあるんですか?
関口さん
今年3月には江ノ電バスの1日乗車券「のり旅きっぷ」をデジタル版でつくりました。これも、EMotアプリを活用したデジタルチケットで、地域の事業者と連携したサービスを加えて、移動プラスαを楽しめるものにしたいと思っています。
今後は、バスでないと行きづらい地域の飲食店で食事ができるとか、デジタルスタンプラリーとか、どうしたら移動がもっと便利で楽しくなるのかを地域の皆さんと一緒に考えて、盛り上げながら、移動そのものの価値も一緒に高めていきたいです。
勝
多くの方が様々な目的で利用される江ノ電さんだからこそ、地域の皆さんのアイデアを参考にしながら、「より便利に」「より楽しく」なるサービスを考えていくことを大切にされているんですね。
前原さん
移動の価値を地域の皆さんと一緒に考えながら高めていくことは、MaaSにとって、とても重要な考え方です。地域に目を向けると、特に大船駅、鎌倉駅周辺の交通渋滞は市民の方にとっても大きな課題ですが、交通事業者にとってもバスの定時性確保や、運転士の労働環境の改善の面でも、喫緊の課題です。公共交通による移動の価値を高め、地域課題を解決していくことは、結果として市民や働く我々みんなの「Well-Being」の向上につながるのではないでしょうか。
勝
地域の皆さんと一緒に考えながら、Well-Beingの向上に向けて、取り組んでいくという部分は、まさに鎌倉市の「スマートシティ」と同じ考えですね。
スマートシティの発想で新たな交通サービスを!
勝
江ノ電と聞くと、やはり鉄道やバスのイメージが強いんですが、ほかにもに新たに取り組んでいる移動手段はあるのでしょうか?
関口さん
実は、鎌倉市内のシェアサイクルの普及にも取り組んでいて、「SHONANPEDAL」という名称で、2021年より運営を開始しました。最近では鉄道やバスとシェアサイクルのシームレスな移動をお客様に体験頂くために、定期券所有者へのキャンペーンを実施しました。
勝
鉄道やバスのイメージが強い江ノ電さんが、シェアサイクル、とても新鮮です!このSHONANPEDALとはどういったサービスなんですか?
関口さん
SHONANPEDALは、エリア内のポート(無人の駐輪施設)を利用して自由に乗り降りができるシェアサイクルサービスで、IoTの活用によって、事業展開が可能になりました。今後、鎌倉市内でさらに普及していくことで、移動がより便利で楽しくなるんじゃないかと思っています。今は自社だけですが、他の交通事業者や鎌倉市、地域の事業者の皆さまとも連携して「公共交通で移動しても不便なく楽しいんだ」と、思ってもらえる取り組みにしていきたいと考えています。
勝
自社だけで取り組むのではなく、他の交通事業者や、地域事業者、自治体等と連携して、地域課題を解決しようといった考えは、これまでありそうであまりなかった考えですよね。
関口さん
高齢化や少子化により、免許を保有される方は今後減少する可能性もあろうかと思います。小さなお子さんがいるご家庭も含めて、自家用車を持っていなくても気軽に移動できる社会を目指して、今後もMaaSの取組を通じて、地域の移動を支えるために頑張っていきたいと思っています。
勝
では最後に、江ノ電さんにとって「スマートシティ」ってどういったものですか?
関口さん
きっと、スマートシティって、テクノロジーを使いつつ、「移動」の本質を考えながら、どうやってさらに快適に、そして楽しくしていくか、を地域の皆さんと一緒に考えていくことなんじゃないかな、と今は思っています
勝
ありがとうございます。移動だけでなく、飲食や買い物など複数のサービスを巻き込みながら、地域の皆さんとよりよいサービスを一緒に考えていくことで、移動だけでなく、地域も盛り上げていこうとしていることが伝わりました。
江ノ電さんがお話しされたとおり、スマートシティは、テクノロジーを活用することで、日常生活が少しだけ「便利」に、そして「楽しく」なったりするところから始まるのかもしれませんね。
本日はインタビューにご協力いただきありがとうございました!
さて、今回は地元の交通事業者である江ノ電さんへのインタビューの様子をご紹介しましたが、いかがでしたか?
移動だけに目を向けるのでなく、複数分野に目を向けながら、利便性、快適性の向上を図っていることが、最適なサービスの提供に繋がっているのだと感じました。また、地域の皆さんと一緒に考え、地域を盛り上げながら、移動の価値を高めようとしており、このことは、鎌倉市がスマートシティの取組で大切にしている「市民起点」のヒントになるような気がします。
次回は、実際にスマートシティの実証事業に先行して取り組んでいる鎌倉市消防本部の職員へのインタビューの様子を紹介していきますので、是非ご覧ください。